都合が良い時だけ「俺たち」の文化にしやがって

例の件、こういう感じで以前に一度、私自身が自分の気持ちと向き合ってみた&一応オタクとしての気持ちを世の中……というかオタク内で、私はこの件をこういう風に考えていますよ、というのを表明してみたわけなんだけども。

nazpipi.hatenablog.com

 

で結局、『Make Up Day/Missing』も、『本音と建前』も、モヤモヤしつつも購入し、モヤモヤしつつも内容をすべて確認した。あまりにもアウェーな雰囲気の歌番組で披露されるのも見た。ホントにとんでもないことをしやがったなクソジジイと事務所、でもそのクソジジイと事務所が見いだしたから彼らの曲を聴けるわけで……、で、結局CDを買うことでその事務所にお金が落ちるわけで……という、逃れられないジレンマに陥ったりした。

 

で、自分の気持ちのモヤモヤが収まらないことに加えて、最近のいろんな報道を見てるうちに、報道や世論そのものに対してちょっと思うこともいろいろ出てきたので、というか一部は思い出しムカつきなんだけど、これもいまの感情として、ブログにしたためておこうと思います。

 

最初に書いておきますが、性加害の件を大々的に報じることが間違っているとは決して思ってないです。「他に報道すべきことがあるだろ」という意見に対しては、いやたしかに他にも報道すべきことはあるのですが、それらと優劣をつけるべきことではなく、埼玉のトンデモ子育て条例とかウクライナ情勢とか中東情勢と、同じくらい大変重要なニュースだと思っています。

自分たちの報道機関としてこういうことが過去にあって、それに対してどう向き合っていく、という、自らを省みるスタンスの報道が少しずつ増えてきたことに対しては、肯定的に捉えています。本当はもっと、報道機関も自分たちに第三者委員会とか入れて徹底的にやるべきじゃないの?と思いますけど。こんなこと引き起こしたメディアなんて今さら自浄作用なんかないでしょうよ。

 

いきなりめっちゃ脱線してリストの話をする。指名NGリストの話はそもそもいろいろ論点がある話だけど、NGリストに載っていたとされる東京新聞の記者が1回目の会見で東山社長にぶつけた質問、そもそもその記者が書いた記事(告発者以外の被害者の個人名が特定されかねない書きぶりをされている)から、関連して。

そもそも1回目の会見でタレント出身社長に投げかけられた「あなたは性加害を受けたんですか?」っていうセカンドレイプ質問に対して、もっと毅然と対応するべきだったと思うんだよな。投げかけられた本人が、ではなく、例えば同席している弁護士の仕事でしょうよ。

まあ大元は、広義*1のサバイバーであるタレントを社長として表舞台に引っ張りだしてきた事務所が悪いっていう話でもある。

でも事務所だけじゃないよね。次期社長の発表をする前から、キャスターをやっているタレント、SNSをやっているタレントに「何かコメントをしろ」っていう声は、プロの記者かそうでないかを問わずすごく多かった。さっきも書いたけど、タレントたちは広義のサバイバーであるわけで、彼らにコメントを求めるような世論のうねりを静止するマスコミとかコメンテーターはいた?リベラルを自称するならそれくらいはしてくださいよ!

ていうか全体的に事務所の会見が全然「毅然と」してないんだよ!!あまりにもゴシップ的な質問とか、セカンドレイプにあたったりとか、答えるべきでないことに対しては毅然とその旨を伝えるべき。なんでもかんでも記者に問い詰められたことに対して「そうですね……」(沈痛な面持ちと戦力外通告ボイス*2)で全部受け入れて答えるのは、ある意味思考停止ではないのか!?そんでその割にコソコソNG記者とか決めてんじゃねえ!という気持ちは、確かにある。

 

※2023/10/10追記

このブログを書き上げたあと事務所から目を疑うようなニュースリリースが出されていて、本格的にもうさすがに事務所担でいることは無理かな……と思った。毅然と対応しろって書いたのはゴシップ的な好奇の目を向けてくる記者とか世間に対してであり、被害者の可能性がある人に悪魔の証明をさせろということではないんだよ……

 

で、本題に戻る。とはいえ確かに、タレント出身とはいえ、経営側に回った立場の人間はいろいろなことに対してコメントする必要があるだろう*3。ただ、経営側でもないタレントにコメントさせることに飽き足らず、舞台やコンサートの現場、ショップの近くでオタクを捕まえてインタビューし、その顔も、誰ファンであるのかも、ショップで買ったレシートも晒して報道すること、本当にいま一番、この問題を解決するにあたって必要なことなんですか??

 

 

ジャニー喜多川が死んだときの社会の雰囲気を、よ~~~~く覚えている。

私は社会人数年目だった。通夜に集ったタレント大集合の写真が公開されて、その中で自担がどこにいるかを目を皿のようにして探したり、タレント大勢の追悼コメントが発表され、タレントたちの生の言葉としてわりと楽しんで読んでしまった記憶もある。

そして記憶にはっきりと残っているのは、時の首相が追悼コメントを出したこと、また、ワイドショーの有識者枠で出ているコメンテーターが「いかに事務所のエンターテイメントが素晴らしかったか」を語り、歌番組だけでなく報道番組でも追悼コーナーが組まれたこと、だ。特に忘れられないものがある。年配の男性コメンテーターが放った、「ジャニーズのエンタメは非常に素晴らしいので、男性も一度見るべきものだ。顔ばっかり見に来る女こどもだけのものにしておくのはもったいない」というような内容のコメントだ。

まあ案の定炎上していたし、私も例に漏れず非常に怒りを覚え、頭から湯気が出そうになった記憶が鮮やかに残っている。顔だけを見に行くのではない。そして顔を見に行っていたとしても、何が悪いことがあろうか。オタク=女こどもという決めつけも非常に安易である。いろいろ突っ込みどころはあるが、そもそも、素晴らしいエンタメって、どうせ招待された有名グループのコンサートとか、テレビの話しかしていないんじゃないか?本当にいろいろな、それこそ爺さん直轄のジャニワとかジャニアイとか、難解な舞台も見た上で言っているのか?三幕で突然キャメロンがめっちゃ映像出演してきて呆然としたこととか、あるか??

 

確かに事務所のタレントはテレビにたくさん出ていたし、お茶の間人気も重視していただろうけど、そのファンダムの中心にいたのは、私たちオタク(体感、女性が多いだろう*4)だ。それが、「女こどもは顔ばっかり見て本質がわかっていない」と勝手に断罪されて、文化を簒奪された。『この国を代表するエンターテイナー』『もはや日本の文化』『世界に誇る天才プロデューサー』……訃報に際して突然投げかけられたそれらの言葉で、ジャニーズは「俺たち」のものにされてしまった。

 

ちなみに余談だが、私はプロスポーツも好きで、(今はそうでもないけど)当時、それらのファンダムは男性比率が高かった。それはそれで、ネットコミュニティでは女ファンは何をしていてもだいたい「顔ファン」「ニワカ」「彼氏の影響か?」と誹られ、メディアにも『○○女子』とミーハー扱いされた。いやそもそも顔が好きだったりニワカだったり恋人の影響だったりミーハーであることの何が悪いかわからないが……。そんな中、ファンダムの中でマジョリティでいられるが故に、余計なストレスのかからないジャニーズのファンダムは非常に居心地が良かった。これはある種、特権的な立場だったということだろうけど。

 

翻って、今、である。

毎日のように、SNSでは「○○の現場でオタクのコメントを取ろうとするテレビ局がいます!」と注意喚起され、実際にワイドショーでは何度も何度もテレビで取材を受けるファンの姿を見た。顔も、持ち歩いているグッズも大写しにされ、「○○のファン(20代)」と推しも年代も晒され、コメントを切り取られる。そしてそれらが映像として、キャプションとしてインターネットに残る。世間は許していない事務所を支持し続ける「変な人たち」として。変な人たちを批判して、俺たちはそういう人たちは許しませんよ、はい終わり。事務所のエンタメは、「俺たち」の文化にされていたことなどなかったことのように、また、オタクの手に押しつけられる。

 

私たちオタクにも責任がないとは言わない。でも、事務所と先代の横暴を許したのはメディアとの癒着であり、ホモフォビアであり、もっと言えば一人一人が生きているこの社会なんじゃないんですか??オタクにインタビューして、オタクを自分たちのサイドから切り分けて、批判の矛先をそっちに向けて、自分たちは「そうじゃないから」と安心している。これはメディアにも言っているし、世間にも言ってるけど、それってこの問題の根本的な解決になるんですか?????

 

都合が良いときだけ「俺たち」の文化にしやがって。まごうことなく、この問題は、私たち、俺たちの問題なんだよ。

*1:本人が直接なにかあったなかったに依らず、性加害が身近で行われていたことが明らかになったという意味での

*2:こうやって茶化すからいけない、ごめんなさい。彼は経営者として経験を積んできている訳では無く、役者・タレントとしてのキャリアを踏んでいるわけで、それを馬鹿にするようなこんな書き方は良くないよね

*3:広義の被害者である彼らにその立ち回りをさせる事務所の判断には、ファンとして本当に失望しているが

*4:これも見かけや話し方で勝手に断定しているだけで、雑な認識だが