The Music Never Ends試論〜我々が「嵐がいなくなった世界」を生きるために「ジャニーがいなくなったジャニーズ」を生きた嵐が教えてくれたこと

2020年のジャニーズ・ライブ事情に思いを巡らすとき、サブリミナル手洗いソングとかオンラインとかデジわとかとかいろいろあったけど、なんやかんや1番印象的だったのは、「ジャニーさんへの追悼」だったな。彼が亡くなったのは2019年の夏だけど、その死後に企画・演出されたのは実質2020年のツアーからだったので。個人的に特別印象的だったのはやっぱり、佐藤勝利さんのSHOW MUST GO ONだったかな〜。


ジャニーさんが亡くなって、何か今までと違うことが起きた時に「ジャニーさんがいた頃はこうはならなかったのに」とか、「タッキーのやり方はここが悪い、ジャニーさん生き返って欲しい」とか、そういうオタクの気持ちのほとばしりを見かけることも増えた。


そうやって理不尽な気持ちのぶつけどころがあるのはオタクとしては楽チンだと思うけど、わたしは首肯しかねるのよね。ジャニーズが「ジャニーさんの会社」じゃなくって、なにか別の形になっても、永遠に残ったらいいなと思ってるから。


ジャニーさんの存在は、キリストに通じるところがあると思っている。というのは全く「すばらしい人だ!」とか「うさんくさい!」とか言いたいわけではなく、ただ一点、「その情報を人づてにしか知ることができない」という点において。

キリストも本人が書いた書物とかはなくって、あくまで周りの弟子たちが残した言行録によってしかその人生に触れることはできないし、ジャニーさんがどういう人なのかも我々はジャニーズタレントを通じてしか知ることができない。ただたぶん2人とも、なんかすごいカリスマ性がある人だったんだろうなとは思う。知らんけど。


そして「タレントは直接知ってる」「オタクは直接は知り得ない」という、事務所全体の世界観の核であるジャニーさんへの情報格差(?)が、ジャニーズの面白さの源泉のひとつなのかなと思っていた。だから実は、事業承継的な意味では、没後数年より、十年後くらいが難しいんじゃないかと思っていた。つまり、ジャニーズ事務所内で「ジャニーさんを直接知ってるタレント」「ジャニーさんを直接知らないタレント」が出てきて、後者の子たちがいざメインを張っていくとなったときに、価値観を共有できるのかという。


その不安を場外特大ホームランでブッ飛ばしてくれたのがThis is 嵐 LIVE、そしてThe Music Never Endsだった。

 


★ジャニーズ・アイドルの仕事は""翻訳""から始まる


ジャニーズ事務所が他のアイドル事務所と、定量面で見て何が違うんだろう?って考えた時に、正直「歴史とこれまでの楽曲数」だと思うんですよ。その歴史と先輩たちの楽曲があるからこそ、ジャニーズに入った男子たちにとっての最初の仕事は""翻訳""になる。つまり、Jr.として、先輩たちが過去に歌ってきた名曲を、どう再解釈して、自分がどう歌って踊るのか?これがJr.自身のコンサートや少年倶楽部で行われる、と。

 

もう一方で、デビューした先輩たちがどうやってパフォーマンスをしているかを間近で見るツアーバックというOJTも実施する。「PDCAっていうのは順番が違うと思ってて、まずはDoする」ことが方針の事務所であると、Netflix松潤が語ってくれた通り。


松本潤は、そして嵐は、This is 嵐 LIVEを通じて、この「翻訳」と「OJT」をこれ以上なく完璧にやってのけた。

 


★何があってもショーは続けなければならないんだ

 

嵐は言わずもがな自分たち自身の持ち歌をたくさん持っているので、このコンサートではJr.のように先輩の曲を"翻訳"するわけではない。ではなにを翻訳するのか。ジャニーズに伝わるジャニーさんイズムの本髄、""SHOW MUST GO ON""である。

 

Show Must Go On

何があってもショーは続けなければならないんだ


Netflixにもし入っていたら、「ARASHI’S Diary Voyage」の第24話を絶対に見て欲しい。かいつまんで話すと、嵐は、2021年の活動休止に向けて、ものすごく膨大な準備をしていた。中国・北京でのコンサート、新国立でのアラフェス、そしてアメリカ・ロサンゼルスでのコンサート……順調な準備の最中に突然降りかかった、コロナという未曾有の事態。最後の大舞台のために2年前からずっと計画してきたことが、目の前でどんどん崩れ去っていく松本潤の慟哭と葛藤、そしてそんな中でもアイデアを出し続けて""ショーを続けようとする""様子は、ジャニオタなら…いや、エンタメに救われてきた経験がある者であれば涙を禁じ得ない。

 

彼は一言も「コロナのせい」にしない。コロナ禍でショーを続けるために、どうしたら良いのか。むしろコロナ禍だからこその演出を。アイデアを捻り出し続けたその結集がThis is嵐LIVEである。客席がないからこその広いステージ。観客がいたら安全管理上建てられないであろう、高い塔のような舞台装置。観客がいたらありえない、客席からは見られない場所にある小部屋や、おそらく現在使える最高峰のCG・AR技術。それぞれの家から参加している観客と交流するための新機構。嵐からのリモートファンサ。


ジャニーズ事務所、これからが一番面白い


そしてそのバックに、これからのジャニーズ事務所を、これからのエンターテイメントを担っていくジャニーズJr.を(東京でグループに入っていて・深夜も出られる歳で・裏番組に出てない子は全員?)できる限りつけている。究極のOJTですよ。「コロナ禍でもこうやってコンサートができる。こういう機能が使える。こういう演出ができる」。最新鋭の技術をこれでもかと使って、アイデアの種みたいなものをバックのJr.達に植え付けていく。私たちから見えているのはバックのJr.だけだけれど、その経験はもちろん、ニノが言及していた旧MADE・宇宙の5人や、周りのスタッフさんにもしっかり引き継がれているはずだ。

https://j-island.net/movie/play/id/8193


SMAPもいなくなって、嵐も休止して、関ジャニも人数が減って、ジャニーズ事務所はオワコンだ」とかヤフコメに書いてる人、見てる〜???

いまの王国を作り上げた""黄金期""のJr.出身者が、休止したり、違う道を選んだり、はたまたアイドルで居続けたり、後進を育てたり……と少しずつ次のキャリアに進み始めていて、まあたしかに大変革時代ですよ。それって、もしかしたらジャニーズ史上これからが一番面白いところかもしれないんですが……。

 

★SHOW MUST GO ONの同義語としてのTHE MUSIC NEVER ENDS

 

そんな潤くんが行き着いた結論は「音楽は永遠に残る」ということでした。ライブでの最後の挨拶を引用します。まだ見てない人はネタバレご注意です。

 

21年間でたくさんの人たちに作っていただいた音楽を、これからも愛してください。辛いときに、元気出したいときに、音楽はいつでもそばにあります。さみしかったら、嵐、聴いてください。俺も聴きます。


そして、今回のアルバムの最後の歌、“THE MUSIC NEVER ENDS”へ。この歌は上記の松潤の思いをギュッとしたみたいな楽曲で、歌詞もめちゃくちゃ沁みます。こんなに歌が沁みるのも、もしかしたらオンラインライブだからかも。実際のライブだと自担の距離とかファンサが気になって、歌詞まできちんと気持ちをはらえない時あるし。これもコロナならでは、かもね。歌詞を一部引用します。

 

Brighter way 連れてくよ こころの旅に出かける

チケットはその掌に“Play the song”どこまででも

喜び 悲しみ すべてに寄り添いながら

導かれるよう口ずさむ The music never ends


そう、嵐は休止しても、SMAPは解散しても、内くんとすばるくんとりょんぴが脱退しても、山Pが、手越が、長瀬が退所しても、みんなが歌っていた……そして私たちの人生に寄り添ってくれた素敵な楽曲たちは、消えてなくなることがない。そしてその素敵な楽曲を、Jr.が翻訳・再生産し続けることによって、ジャニーズの楽曲は""永遠""になるのである。

 

松本潤の“THE MUSIC NEVER ENDS”は、ジャニー喜多川の“SHOW MUST GO ON”の翻訳、なのだ。


ここまで潤くんの話ばっかりしてきてしまったけれど、嵐の他の4人は、一番歳下ながら強い(強すぎる?)信念を持ってコンサートを作り上げる潤くんに対して「かわいいんだよ、松潤は」と全員が思いながら、演出を任せていたんだなというエピソードがまた泣ける(前述、Voyage24話参照)。

メンバーから松潤への愛、嵐からファン・スタッフ・ジュニアへの愛、それはジャニー喜多川からエンターテイメントへの愛。


嵐は休止前最後に、この困難な時代を生き延びるための、一つの方法を教えてくれたのだ。

 

The Music Never Ends

The Music Never Ends

  • J-Pop
  • ¥255

 

 

★一番言いたかったのは…

 

というわけで、全てのジャニーズオタクの皆さん、全てのエンターテイメントのファンの皆さんは、是非是非この「This is 嵐 LIVE」をご覧になることを強く強くお勧めします!!

残りは明日9日と明後日10日の4回のみ。ライブ中に「ミーツチャンス」なる新機構で、在宅で参戦しているオタクの映像がちょいちょい映り込んでいるので、円盤化はないんじゃないかな?と思っている。し、なにより「今」、見ておいてほしい…!!マジで2020年のエンタメのモヤモヤを総決算してくれるので。アフターコロナのエンターテイメントはここから始まる!ぜひ!!